就学前教育(幼児教育)はコスパ最強?&いつ子どもをつくるべきか?

2018(平成30)年の人口動態調査によれば、父母が結婚生活に入ってから第1子出生までの期間は、2年未満までに54.4%に上り、8年未満までに96.3%に上るなどとなっています。平均期間は2.44年です(表4.22)。1990年は、2年未満ですでに75%に上り、5年未満で95%を超えていました。平均期間は1.66年でした(同)。時代とともに変化しています。

さて、ベストセラーになった『「学力」の経済学』(中室牧子.ディスカヴァー・トゥエンティワン,2015年)は、「教育にはいつ投資すべきか」というセクション(Kindle版,位置No. 722-772)と、「幼児教育の重要性」というセクション(同,位置No. 773-820)で、教育経済学の知見を次のとおり紹介しています(「偏差値で輪切りにすることは悪か?」にも同じことを書きましたが、以下、本エントリーを書くために必要な箇所だけを参照したり、引用したりしています。同書は名著ですので、関心のある方は全体をぜひ通読ください)。

子どもの教育に時間やお金をかけるとしたらいつがいいのか」(1年追加的に教育を受けたことによって、子どもの将来の収入がどれくらい高くなるかを数字で表したものを教育の収益率と呼ぶが、どの教育段階の収益率がもっとも高いのか)という問いに対しては、ほとんどの経済学者が一致した見解を述べると思われる。すなわち、最も収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)である。

ただし、就学前教育(幼児教育)とは、勉強だけではない。しつけなどの人格形成や、体力や健康などへの支出もそこに含まれる(したがって、教育と限定するよりも、人的資本への投資と呼ぶべきものである)。

シカゴ大学のヘックマン教授らの研究業績が、次のことを明らかにしている。すなわち、1960年代から開始された「ペリー幼稚園プログラム」では、低所得のアフリカ系米国人の3~4歳の子どもたちに、非常に手厚い就学前教育が提供された。ランダムに選ばれた、入園を許可された子ども(処置群)と、入園を許可されなかった子ども(対象群)の比較によって、効果が測定された。約40年にわたる追跡調査の結果、処置群の子どもたちは、小学校入学時点のIQが高かっただけでなく、その後の人生において、学歴が高く、雇用や経済的な環境が安定しており、反社会的な行為に及ぶ確率も低かった。

以上の趣旨のことを述べ、就学前教育(幼児教育)の重要性を『「学力」の経済学』は強調しています。上の「ただし・・・」の段落は、「ゲームは1日何時間まで?勉強やゲームに青春をかけたら駄目か?両立は可能か?」で紹介した、非認知能力を連想させます。

本エントリーが注目したいのは、次の点です。すなわち、就学前教育(幼児教育)の重要性を『「学力」の経済学』は上のように指摘していますが、その中で、「図15 人的資本投資の収益率(概念図)」というものを紹介しています(Kindle版,位置No. 763)。人的資本投資の収益率が高い順に「0~3歳」、「4~5歳」、「学校」、「学校を卒業した後」となっており、就学前教育(幼児教育)が大切であることを説明しています。

その図をよく見ると、人的資本投資の収益率が最も高いのは「生まれる前」であり、「0~3歳」を上回っています。「生まれる前の人的資本への投資は、母親の健康や栄養などに対しての支出を指す」と注に書いてあります。母親の状態を良くしておくことは重要なのですね。

以下は、『「学力」の経済学』に書いてあることではなく、そこから連想して当ブログ管理人が考えたことです(より正確に考えるには、『「学力」の経済学』が依拠している文献の原文に当たりたいところです。将来、時間が取れたら原文に当たって、本エントリーを加筆するかもしれません)。

人的資本投資の収益率が最も高いのは、生まれる前(=母親の健康や栄養などに対しての支出)とのことですが、母親の健康には、精神面の健康も含まれるのではないでしょうか。だとすると、「結婚をしたが、元々は赤の他人だった二人が一つ屋根の下で暮らし始めたためだろうか、衝突が多く、妻のメンタルの調子が悪い」のような状態(そのような状態があったとして(※))のときではなく、「しばらく経って、結婚生活が軌道に乗って夫婦関係が良くなった」状況(そのような状況をつくり出すことができたとして)のときに子づくりをするべき、となるように思います。

夫婦関係が混乱していて、妻の精神状態も悪いときにわざわざ子どもをつくるよりも、そうでない、良い状況のときに子どもをつくるべき、とも言い換えられると思います。そりゃそうだろうなということで、直感的には妥当なように思います(※※)。

※可能性低いんじゃない?新婚のときはラブラブでしたよ。と思った人は、ラッキーな人かもしれません。HolmesとRaheによる「社会的再適応評価尺度」によると、「配偶者の死」や「離婚」などと並んで、「結婚」もストレッサーの上位に並んでいます。

※※補足。本エントリーは、『「学力」の経済学』にヒントを得て、人的資本投資の収益率という観点から子づくりのタイミングを考えると、上のようにいえるのでは?というものです。別の見方ももちろんあると思います。

  • 子どもを持ったら、以前は悪かった夫婦関係が良くなり、夫や妻の健康状態(精神状態も含む)も良くなった。
  • 子どもを持ったら、以前は良かった夫婦関係が悪化してしまい、夫や妻の健康状態(同上)も悪くなってしまった。
  • 子どもを持っても、夫婦関係や夫婦の健康状態は特に変わらない(「子どもを持てば変わってくれるかもしれない」と思っていたが、夫(または妻)は変わらなかった。夫婦関係も悪いまま、みたいなケースも含む)。

など、本エントリーで書いたこととは別の視点で、例えば夫婦関係という観点から考えると、子どもを持つことと夫婦の関係との関連は、ケースバイケースなのだろうなと予想します(不勉強で、具体的には存じていませんが、こういうことを検討した研究もあるかもしれません)。