偏差値で輪切りにすることは悪か?

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ベストセラーになった『「学力」の経済学』(中室牧子.Kindle版,ディスカヴァー・トゥエンティワン,2015年,位置No. 599-697)は、「「友だち」が与える影響」というセクションで、教育経済学の知見を次のとおり紹介しています(なお、ほかのエントリーもそうですが、以下、本エントリーを書くために必要な箇所だけを参照したり、引用したりしています。同書は名著ですので、関心のある方は全体をぜひ通読ください)。

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  • 学力の高い友達の中にいると、自分の学力にもプラスの影響がある。
  • しかし実は、学力の高い優秀な友人から影響を受けるのは、そのクラスでもともと学力の高かった子どものみ。
  • それどころか、自分のクラスに学力の高い優秀な友人がやってきた場合、もともと学力が低かった子どもには、マイナスの影響があることを示す研究もある(自信を喪失するため)。レベルの高すぎるグループに子どもを無理に入れることは、逆効果になる可能性すらある。
  • 習熟度別学級は、ピア・エフェクト(友人や周囲から受ける影響)の正の効果を高め、特定の学力層の子どもたちだけではなく、全体の学力を押し上げるのに有効な政策である。なお習熟度別学級は、マサチューセッツ工科大学の貧困アクションラボの研究成果をもとに、学力向上を目標とした複数の教育政策の費用対効果を算出した図(Kindle版,位置No.1038)において上位に位置している。すなわち、主に途上国での研究結果だが、子ども手当や少人数学級などより、習熟度別学級の方が、学力を向上させる費用対効果が高いことが示されている。

ほかにも、習熟度別学級はすべての学力層の子どもの学力を上げるが、特に大きな学力上昇が見られたのは、もともとの学力が低い子どもたちだったことや、習熟度別学級が子どもたちの学力を上げるのは、子ども同士が、他者と比較して意欲を失うことがないことや、教員が、子どもたちの理解度やペースに合わせた指導が可能になるためであろうことなどを紹介・指摘しています。

上の考え方で行くと(考え方というか、以上は、データに基づいており、客観性があります)、偏差値で受験生を「輪切り」にし、結果的に、入学する高校や大学が学力層ごとに決まるようにする(習熟度別学級と同様の状態を学校単位でつくり出す)ことは、子どもたちの学力を上げるという観点からは、妥当性があるように思われます(こう書くと、条件反射的な、またはヒステリックな反対意見が出るかもしれませんが、上の研究結果に基づけば、上のように思われます。「習熟度別学級」と「それと同様の状態を学校単位でつくり出す」なので、完全に同一ではありませんが)。

上記は、個人的な経験とも合致します。当ブログ管理人は、現在は都市部の4年制大学で教員をしていますが、以前は、地方の短期大学で教えていました。都会に比べて地方は大学・短大の選択肢が少ないということもあるでしょうが、その地方には国立大学もあります。あえて短大を選ぶ高校生たちには学力的な事情もありました(率直に言うと学力は高くはありませんでした)。

でも、その短大で素晴らしい技能を見事に身につけ、卒業・就職していく学生たちをたくさん見てきました。学級崩壊のような状態になってしまっている高校や大学などでないかぎり、何もトップ校でなくても、どの学校でも、本人の学力に見合った環境で能力を伸ばすことができると、個人的にも思います。

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なお、『「学力」の経済学』は、次のようにも述べています(Kindle版,位置No. 689)。

しかし、習熟度別学級の導入を考えるうえでは、注意が必要なこともあります。国単位のデータを用いたスタンフォード大学のハヌシェク教授の研究では、子どもの学齢が低い時に習熟度別学級を実施すると、格差が拡大し、平均的な学力も下がってしまうと指摘されています。

あくまで上の研究に基づけばですが、低い学齢のときから英才教育をわが子に施すよりも、種々雑多な集団にその時期は身を置かせ(例えば、どこにでもある、至って普通の公立小学校などでしょうか)、ある程度の時期になってから英才教育を施す方が、結果的に優秀な子に育つ可能性が高い、かもしれません。

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投稿者: まなびや

まなびやと申します。 このサイトでは、ネット上で見つけた興味深いウェブページを紹介・レビューしていきます。それ以外の独自記事も徐々に書きます。ジャンルは医療・健康、人間関係・対人関係、結婚・妊娠出産・育児子育て、介護、ビジネス・マネーなどなど。

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