科学的根拠(エビデンス)に基づいて育児・子育てや教育を論じる本が最近の流行のように思えます(全部読破したわけではありませんが、例えば、当ブログで何度も言及した『「学力」の経済学』や、以下で引用する『「家族の幸せ」の経済学』、『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』など)。単なる一個人の経験より客観性があり、有益だと思います。
それらには、統計的な研究に基づいて、「全体を見ると、こういう傾向がある」のようなことや、「子どもに対してAという行為を行うと良い場合が70%。良くない場合が30%」のようなことを述べている箇所もあるように感じます。
繰り返しますが、そうした本は有益だと個人的に思います。ですが、個々の親にも、子どもにも、当然、性格や個性があります。親の年収や学歴、家族の状況(子育てに協力してくれる祖父母が近くにいるか、など)が家庭によって異なるのももちろんのことです。
「ほかならぬ自分が、ほかならぬわが子に、どう接すればうまくいくか?」「ほかならぬわが子は、全体の傾向の、どれに当てはまるか?」という問いに直面した場合、どうすればよいでしょうか。
個別の状況にもっと肉薄する研究、例えば、「親の性格がこういうタイプで、かつ、経済状況が平均的な場合、こういうタイプの子どもには、このように接するとうまくいく」くらいまで明らかにした研究があれば良いかもしれませんが、学術研究がまだそこまで進展していない場合も多いと予想します。
関連する記述を本の中に見つけることができます(やはり繰り返しになってしまいますが、データに基づいて育児・子育てや教育を論じる本は、有益だと思います。本エントリーの趣旨は、それらを否定することではありません)。
『「家族の幸せ」の経済学:データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(山口慎太郎.光文社,2019年)は次のとおり述べています。
気をつけなければならないのは、お母さんの学歴によって、子どもにとっての家庭環境が直ちに決まるというものではない点です。[中略]あくまで傾向であり、すべての人に当てはまるものではありません。(Kindle版,位置No. 2151)
科学的根拠だけで、私たちがどう生きるべきかを決められるわけではありません。
たとえば、母乳育児には子どもの健康にとってさまざまなメリットがあることが明らかにされたわけですが、一方で、少なからず手間もかかるわけですし、そのほかにもそれぞれの事情によって、母乳育児を行わないという選択も「家族の幸せ」に繋がりえるのです。
[中略]
科学的研究は、私たちがよりよい選択をする上での助けにはなりますが、「何が自分にとっての幸せなのか」までは教えてくれません。(同,位置No. 2756)
『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(森田麻里子.光文社,2020年)も次のとおり述べています。
子どもたちは誰ひとりとして同じではなく、それぞれ違った個性や性質を持って生まれてきています。ですから、「科学的に正しい」とはいっても、全員に当てはまる一つの「正解」があると言いたいわけではありません。同じ研究結果を見ても、その解釈は人によって、家庭によって、真逆になることだってあります。九九パーセントの人に効果があることであっても、裏を返せば一〇〇人のうち一人にとっては効果がないと言うこともできます。
[中略]
それぞれのご家庭でどのようにしていくのか、考える材料にしていただけたらと思います。(Kindle版,位置No. 61)
統計的な研究に基づいて、「全体を見ると、こういう傾向がある」のようなことや、「子どもに対してAという行為を行うと良い場合が70%。良くない場合が30%」のようなことが本に書いてある場合、「ほかならぬわが子は、全体の傾向に当てはまるか?」や、「わが家の場合は、70%と30%の、どちらに入るか?」は、わが子の個性・特性や、状況を総合的に判断して決断する。もし、まったく判断が付かない場合は、統計的に確率の高い方を選ぶ、というのが基本的な考え方になるでしょうか(本を読んだうえでの個人的な感想です)。
まったく判断が付かない場合も往々にしてあるでしょうから、シンプルに「統計的に確率の高い方を選ぶ」ことが役に立つ場合も多そうです。なので、科学的根拠(エビデンス)に基づく教育・子育て本を手元に置いておいて損はないように思います。
「まったく判断が付かない場合」とは逆のようですが、育児・子育て、その他子どもの教育については、「数学や物理学のことは、何が何だか分からない。でも、教育については、親である自分の体験や持論で乗り切れるだろう」のように考えてしまいがちなようにも思います。しかし、体験や持論は、ときに偏ったものであるかもしれません。親の体験や持論にこだわらなければ、子どもはより伸びる、かもしれません。わが子の個性・特性や、状況を総合的に考慮しつつ、科学的な知見を謙虚に取り入れる方が有益な場合もありそうです。
『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(森田麻里子.光文社,2020年)も次のとおり述べています。
科学的な根拠があっても、目の前の子どもやママ・パパにとってそれがよいのかどうかは、結局のところわかりません。それでも、科学的な根拠があるということは比較的多くの人にとってメリットとなる可能性が高いわけですから、他のどんな情報源よりも 偏りが少なく、有用な情報であると言えるのではないでしょうか。(Kindle版,位置No. 3462)